約 32,351 件
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/180.html
彼が気付かせてくれたものの後日談になります。←を読むのがめんどくせえ! という方はあらすじをどうぞ。 あらすじ 人と関わることを忌避していたアリス。 霧雨の店で修行中の霖之助に会って考えが変わる。 香霖堂を立ち上げた霖之助とこれからもよろしく、と握手を交わした。 【人は変われば変わるもの】 霖之助と握手を交わしたその日から、アリスは人形作りもそこそこに1つの計画を立てていた。 名付けて、『いろいろな人(人外も可)と仲良くなりたいな計画』。 霖之助が気付かせてくれた、友人がいることの素晴らしさをもっと味わいたい。 そのために交友関係を増やそうと、なんのひねりもない名前の計画を遂行すべく頭をひねり続けるアリスだったが、 「……どうしよう……」 今まで人付き合いをまるでしてこなかったため、何をどうしたらいいのかさっぱりわからない。 霧雨の店で聞いてもいいが、あの店の人間は半妖を従業員として雇うような人間だ。 特殊すぎてあまり参考にならないし、霖之助も同様だろう。 そしてもう知り合いがいない。 人里の人間なんぞ問題外だし、そもそも彼らと仲良くなる方法を彼らに聞いてどうする。 本を漁ってもみるものの、魔法使いと人が仲良くする方法など書いてありはしない。 強いて言うなら、絵本などでよくある命を助けるとか人間が一目惚れするなどだろうが、それを待つのはいかにも気が長すぎるし今のところ恋愛は求めていない。 そして、案を出したり否定したりすること2ヶ月。 「……ふふふ、完璧よ。完璧な計画だわ」 目の下に墨でも塗ったような隈を副産物としてアリスの計画が完成した。 内容としては以下のとおり。 1.まずは頻繁に人里に出る。 その際ただ歩くだけではなく、できるだけにこやかに挨拶することで好感度を上げる。 今まで無表情だった分のギャップもあってかなり印象を変える事ができるだろう。 2.さらに魔法の森に迷い込んだ人間を今までのように見殺しにはせず、家に上げて保護する。 紅茶などを振舞って『実は親切で優しい魔法使い』という噂を広める。 3.ある程度評判が良くなったら、自分が人形を人里で売っていることを公表する。 「この人形を作っていたのは彼女だったのか!」ということでさらに評価は鰻登り。 4.ここまで来れば少しくらい話しかけても大丈夫。 話が弾んでいる人間たちに「私も聞かせてもらっていいかしら」などと言って会話に加わる。 気さくな所をアピールし、なおかつ周囲の人間にもその姿を見せることで芋づる式に会話できる相手を増やす。 よく見ればかなり穴だらけの計画な気もするが、一度も人の輪に加わろうとしたことがないアリスにはこれが限界。 計画の第一段階を達成すべく、意気揚々とアリスは人里へと向かった。 寝不足で隈がべったりついた顔のまま。 「……ぐすっ」 完璧な計画は第一段階で躓いたらしく、香霖堂にトボトボと入ってきたかと思えば、隅で膝を抱えてのの字を書くアリス。 なんともいえない顔をしてそれを見る霖之助だが、アリスは現時点では貴重な(この先もずっとそうだが)常連。 それに、自分にとって彼女は明るくなっていく過程を見守った友人でもある。 とにかく話だけでも聞くことにして、アリスに近寄り、しゃがみこんで視線の高さを揃える霖之助。 「……アリス。僕でよかったら、何があったのか話してもらえるかい?」 「……」 「何々?人間と仲良くなろうと思って人里で挨拶して回ったら?」 「……」 「……会う人会う人みんな怯えるばかりだったから、やっぱり嫌われているのかと改めてショックを受け」 「……」 「家に帰って見たら寝不足のひどい顔で出かけていたことに気付いた。 普段家ではこんな顔だと思われたかもしれなくて恥ずかしいやら情けないやら、と。 ……こんなことを言うのもなんだけど、君は意外と思い込んだら周りが見えなくなる性格をしているね」 「……みゅう」 ますます小さくなるアリス。 はあ、と息を吐いた霖之助は、とりあえずアリスを慰めるべく頭を撫でてみることにした。 そっと頭に手を載せ、髪の流れにそって優しく滑らせる。 「まあ失敗したものはもう仕方ないさ。 今日ダメだったら2度とチャンスがこないというわけでもないんだしね。 そもそも、今回人間たちが怖がっていたのは君自身を嫌っていたからじゃないんだし、 今度はちゃんと体調を整えて行ってみればいいじゃないか。」 「……ん」 昔はこうして頭を撫でられたこともあったなあ、と懐かしい気持ちになるアリス。 そうだ、1回や2回の失敗で落ち込んではいられない。 今度はきちんと身だしなみを整えていこう。 何度拒絶されてもいいや。 今までが今までだったわけだし、とにかく誠心誠意頑張っていればいつか結果がついてくるはずだから。 なんとか前向きになることができたアリスだった。 ……どうやら落ち着いたようだ。 そう判断した霖之助がアリスの頭から手を離そうとしたところ、 「……ぁ」 なにやら残念そうな声が聞こえたため、アリスの顔に目をやった。 アリスは一瞬名残惜しそうな顔をしていたが、直後霖之助の視線に気付いたらしい。 しまったぁ! とでも言いたそうな顔で少し見つめあった後、ゆっくり俯いてしまった。 「……やれやれ」 また閉じてしまったアリスの心を開くべく、もう一度頭を撫でる。 またすぐに元気になるだろうと思っていたが、頭を撫でてもらいたがっていた事を知られて意地になるアリス。 僕は何もしていないはずだが……とは思うものの、放っておくのも忍びない。 根競べのつもりで撫で続ける霖之助だったが、当のアリスは連日の疲れが出たようで、いつの間にか寝息を立てていた。 ここに放置するわけにもいかないと判断した霖之助は、アリスを抱きかかえて奥の部屋に運び、布団に寝かせることにした。 「おかあさん……」 横たえたアリスがそんな寝言を漏らす。 どうやら昔母に頭を撫でてもらっていたことを思い出したらしい。 最後にもう一度、アリスの髪に手を滑らせ、霖之助は店に戻っていった。 3日後、アリスは再び人里へ向かったらしい。 「さて、泣き顔でそろそろと入ってくるか、笑顔で飛び込んでくるか……」 どちらであっても面白いことにはなりそうだ、と微笑む霖之助だった。
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/194.html
前の話へ 次の話へ あらすじ 霖之助の協力のもと日本人形を完成させたアリス 次は一人で作ろうと自宅に篭るが、いつの間にか霖之助にフラグを立てられていたらしく寂しくなって香霖堂へ。 なんだかんだでめでたく毎日通うことになり、ひたすら悶えるアリスだった。 アリスが毎日香霖堂へ通いつめるようになって数日、そろそろ生活のリズムも定まってきた。 朝は夜明けともに起床。サンドイッチなど簡単な朝食を作ってバスケットに押し込み、身だしなみを整えて香霖堂へ。 霖之助も朝は早いのでアリスが来るころには起きている。挨拶を交わしつつ奥の座敷にあがりこむ。 持ってきた朝食を2人で平らげ、食後はのんびりと霖之助が淹れてくれた紅茶を味わう。 本当は自分が淹れてあげたいのだが、『このくらいはさせてくれ』と言われては無碍に断るわけにもいかない。 使った食器を仲良く台所で並んで片付け、霖之助が店の部分を、アリスが住居部分の掃除を行う。 このとき服が汚れてはいけないからと割烹着に三角巾を借りるのだが、日本人離れした顔の割りに良く似合う。 一段落したら霖之助は店番。アリスは客の邪魔にならない場所に椅子を置いて人形作りに取り掛かる。 紅白の巫女や瀟洒なメイド、竹林の師弟に白玉楼の庭師などが来店するが、 これら頻繁に訪れる客にはすでにアリスが霖之助に師事していることを説明済みのため、特にどうこう言われることはない。 日が西に傾き始めれば夕食の用意を始める。 アリスの専門は洋食だが、霖之助が和食を好むため教わりながら作ることも多い。 かつてアリスが語った通り、彼女の腕前は人形たちより数段上だった。夜雀のように店でも開けば大盛況間違いないだろう。 2人で存分に舌鼓を打つと暗くならないうちに自宅に戻る。 人形作りの道具は全て香霖堂に置いてあるため、帰宅してからはスペルカードや人形の操作について研究し、早めに就寝する。 何の不満もない幸福な生活。強いて言えばいっそ香霖堂に住み込んでしまいたいが、それはまだ早いだろう。 自分も霖之助も人間に比べてずっと長く生きる。焦らなくて良い。むしろ親密になっていく過程をじっくり味わおう。 自分の人生はいまから絶頂期に入るのだ。 ……そう、思っていた。 「いやー疲れた疲れた。やっと研究が形になったぜ」 そう言いながら入ってきたのは、最近めっきり足が遠のいていた黒白の魔法使い、霧雨魔理沙だった。 「おや、久しぶりだね魔理沙。だいたい2ヶ月ぶりかな?」 「あ~、そういやこの前来たときは会わなかったんだよな。あの時は口やかましい奴がいたからなあ」 「口やかましくて悪かったわね」 どうやら部屋の隅に居たためか気付かれなかったようだ。人がいないと思って好き勝手なことを言う悪友に声をかける。 「うおっと、今日もいたのかアリス。和裁だか白菜だか知らんが、お前ならもう香霖なんかに教わることはないだろうに」 「なんかとはなんだなんかとは」 「そうよ失礼な。言っとくけど霖之助さんの腕前は相当なものよ? だいたい、あんたも裁縫くらい覚えなさいよ。一応仮にも生物学上女の範疇に引っかかってんでしょ?」 「ひどいぜ。こんなに可憐な美少女を捕まえて」 「可憐だと自称するなら、せめて言葉遣いくらい何とかするべきね」 「善処するぜ。んで、まだ香霖にアドバイスもらいにこんな埃臭い所に通ってるわけか。お前も物好きだよなあ」 「別にアドバイスはもらってないわよ。とりあえず一人で作り上げて、何ができて何ができないのか確認するつもりだから」 流れるように掛け合いを続ける2人を眺め、本当に仲が良いなと微笑みつつ口を挟む霖之助。 「この前は一人で作ることにこだわる必要はないとか言ってたような気がするんだが、気のせいだったかな」 「気のせいね。ダメよ霖之助さん、人の話はちゃんと聞かないと。それとも私に話しかけてもらえなくて寂しいのかしら?」 「あれだけ根掘り葉掘り聞き出そうとしていた君がパッタリと質問しなくなったからね。なんとなくしっくり来ないだけさ」 「人間正直が一番って聞いたことがあるわよ?」 「それなら人妖の僕には当てはまらないな」 「ああ言えばこう言う……」 「君がそれを言うのかい?」 今度は魔理沙が2人の会話を眺める。 (……こいつらこんなに軽口叩き合うほど仲良かったか?) 少なくとも前に2人の会話を見たときはもっとよそよそしかった筈だ。 なのに、今の会話からはなんとなく甘い雰囲気すら漂っているように思える。 「何でお前らそんなに仲良くなってるんだ?」 霖之助はアリスとの会話を一時中断、魔理沙の質問に答える。 「そりゃ毎日顔を合わせてれば嫌でも相手のことを理解するようになるさ」 「あら、霖之助さんは私のことなんか分かりたくないって言うわけ?」 「今のは言葉のアヤというか極端な例えを提示しただけだよ。いくら僕でも嫌いな相手に部屋まで貸すほど酔狂じゃない」 「あ~、待て待て待て!」 放っておけばすぐに2人で話を進める。なんとなく自分が蚊帳の外のように思えてイライラする。 おまけに聞き捨てならないことが聞こえた。 「毎日顔を合わせて部屋を借りてる? いつからアリスはここに引っ越してきたんだ?」 「いや、別に住んでるわけじゃないよ。ただ、最初に日本人形を作ってるときは事あるごとに質問しに来てたからね。 ほとんどうちで作ってたせいか体がこっちに順応してしまったらしい。 今では一人で閉じこもっているよりここで作ったほうがはかどるんだそうだ。 部屋は人形作りの道具や材料の置き場所として提供しているだけさ」 「……ふーん……つまり通い妻か。香霖にそんな甲斐性があったとはなぁ?」 「「通っ……!?」」 アリスだけならまだしも、霖之助までそろって顔が赤くなる。 これが他のやつならニヤニヤとしつこいくらい笑ってやるところだが、今回ばかりはそうはいかない。 自分がからかったのは認めるが、その反応はなんだ。 自分がいくら好意を匂わせても歯牙にもかけなかったくせに。 ストレートに伝えても、回りくどくほのめかしても全く動じなかったくせに。 だから、 「……なんでだよ」 気がつけば、不満が口からあふれ出して止まらなくなっていた。 「なんで!? なんでアリスなんだよ!? ついこの前まで赤の他人だったのに! その他大勢の客の一人でしかなかったくせに!! 私のほうがずっと昔から香霖の近くにいたんだ! 実家で修行してるときも! この店を建てたときも! 私が実家から出てった時だって! 途中でふらっと出てきたくせに私の場所を取らないでくれよ! そこはお前の場所じゃない!! 今までもこれからも死ぬまでずっと! 香霖に一番近いところにいるのは私なんだ!!! 他のやつに取られるなんで耐えられないんだ!!! だから……だからっ……」 「……魔理沙」 声が詰まって俯いてしまった魔理沙になんと言って良いか分からず、霖之助はただ名前を呼んだ。 ビクッと肩を震わせ、顔を上げた魔理沙の両目は、今にも涙が溢れそうになっていた。 「……う……うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」 耐えられなくなったのだろう。魔理沙は箒をつかむと、叫びながら香霖堂から飛び出していった。 「魔理沙……」 こちらはアリス。 考えたこともなかった。いつも自分勝手で人の迷惑を顧みないあの魔理沙がこんなに取り乱すことがあるなんて。 魔理沙は強いわけではなかった。弱い自分を一生懸命隠して、それを他人に絶対に悟らせないようにしていただけなのだ。 気付かなかった? 違う。気付こうともしなかった。 思えば霊夢は魔理沙の内面をなんとなく察していたような節がある。だからこそ、魔理沙と上手くやっているのだろう。 「……やれやれ」 そんなアリスの思考は、もう一人の当事者によって中断することになった。 「霖之助さん……」 「驚かせてしまったようだね。だいぶ成長したようだが、あの子もまだまだ子供のようだ」 なぜ……そんなに落ち着いているんだろう? 「多分、父か兄が取られて悔しいような気分なんだろう。しばらくそっとしておけばまた元気に……」 パァン! 「あなた……本気でそんなこと言ってんの……?」 考えるより先に、全力で目の前の男を張り飛ばしていた。 ずれた眼鏡を直すことすら忘れているのだろう、呆然としてこちらを見ている霖之助にさらに苛立ちを増す。 「朴念仁だとは思ってたけどここまで救いようがないとは思ってなかったわよ! お父さんが取られた!? お兄さんが取られた!? ふざけんじゃないわよ! そんなことで女の子が、あの魔理沙が! あそこまで取り乱すわけがないでしょうが! 人の感情に疎いのも大概にしなさいよ!」 ああ、さっきの魔理沙と同じことをしてる。 どこかで冷静な自分がささやくが、止められない。 「他人の気持ちなんて気にならないような顔をして! 気にならないんじゃないわ。分からないのよ! 勝手にああだろう、こうだろうって結論付けて、それを疑いもしない。 普段なら笑って済ませてあげるけどね、今回だけは絶対許さない! 自分が何をしたのか、なんで魔理沙が泣いてるのか、悩んで悩んで悩みぬきなさい! それが分かるまではそのとぼけた顔を見せないでちょうだい!」 そう言い残すと、アリスもまた香霖堂から出て行ってしまった。 「荷物……置きっぱなしだったなあ……まあいいか……」 怒鳴り散らして出てはきたが、少し言い過ぎたかもしれない。 そもそも魔理沙の内面を見ようとしていなかったのは自分も同罪だ。 それなのに自分だけは分かっていたような言い方。 自己嫌悪で足が止まりそうになるが、それを押し込めてでもやるべきことが残っている。 とにかく足を進めるアリスが辿り着いたのは、魔理沙の家の前だった。 大きくノックするが、返事はない。 それでも、今の魔理沙が他の誰かのところに転がり込むことは考えられない。 深呼吸して、家の中の魔理沙にも聞こえるよう声を上げる。 「魔理沙……いるんでしょう?」 「まずは謝っておくわ……。 そんなつもりはなかったけど、結果として私はあなたから霖之助さんを奪おうとしている。 しかもあなたが研究でいない間にこそこそとね。 卑怯といわれても構わない。それだけのことをした自覚はあるもの」 やはり返事はない。だが間違いなく聞いているはずだ。 そして、アリスは決定的な言葉を口にする。 「それでもこれだけははっきりさせておくわ。 私は霖之助さんが好き。今までに出会った誰よりもね。 だから誰にも渡したくはない。例えあなたや他の誰かに恨まれたとしても。 あなたはどうなの? こうして一人で閉じこもって泣いてるだけなの? 失いたくないなら、奪われたくないなら……立ち上がりなさい。 それができないなら、あなたの思いは所詮その程度のものだったということになるわ。 どういう結果になるかはまだ分からないけど、あなたの想いが本物なら、また私の前に立ちふさがりなさい。 ……待ってるから」 勝手なことを言っている。謝っているのか喧嘩を売っているのか分かったものじゃない。 魔理沙にはすまないと思う。それは間違いない。 それでも霖之助を失うのは嫌だ。 ……自分は一体何がしたいのか。 霖之助に怒鳴ったのも意味が分からない。魔理沙の方を向いて欲しいわけではないのに、魔理沙の気持ちを考えろなどと。 とにかく、自分も気持ちを整理する必要があるだろう。 アリスが遠ざかる足音が聞こえる。 声は聞こえていた。 だが、答える気にはならなかった。 自分がいない間に霖之助を取ろうとするアリス。 自分の気持ちになんて気付こうともしてくれなかったのに、知り合ったばかりのアリスといちゃついてた香霖。 2人とも大嫌いだ。 そして、そんなことを考えている自分はもっと大嫌いだ。 ベッドにうずくまったまま、とにかく今は何もしたくなかった。 前の話へ 次の話へ
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/178.html
「暇だな……」 魔法の森の小さなお店、香霖堂。 店主の森近霖之助は、いつになく暇をもてあましていた。 【宿敵と書いてライバルと読む?】 店の中は今日も閑古鳥が威勢よく鳴いている。 まあそれはいつものことなのだが、困ったことに手持ちの本を全て読んでしまった。 もう一度読んでもいいのだが、やはり先の展開がわかっていると面白さも半減である。 「こんにちは~」 そこに現れたのはスキマ妖怪こと八雲紫。 狙い済ましたかのようなタイミングだが、実際話しかけるチャンスを3時間ほど伺っていたりする。 それはまあさておき、 「……君か」 暇なせいか、霖之助は虫の居所が悪いようだ。 あまり歓迎されていない様子にちょっとショックを受ける紫。 しかしそんな内心を悟られるのは恥ずかしいので、何とか取り繕いつつ本題に入る。 「あら、お邪魔でした?折角時間をつぶせるものを持参いたしましたのに」 「……できれば正当な客としてきて欲しいものだけどね。 まあ時間をもてあましていたのは確かだ。それで何を持ってきたんだい?」 霖之助さんも良く知ってるものですけど、と前置きして紫が取り出したのは、何の変哲もないトランプだった。 「霖之助さんはスピードというゲームはご存知?」 「一応ね。 昔は少々やりこんだこともあったよ」 (※ルールは長くなるので略。いないと思うけど知らない人はwikiをみてね!) 「それなら話は早いわ。 ただやるだけじゃあつまらないし、何か賭けるというのはどう? 例えば、7回勝負で勝ち数の多いほうが相手に言うことを一つきいてもらうというのはいかがかしら?」 何か嫌な予感がしないではないが、霖之助も勝つ自信はかなりある。 それになんだかんだで紫の力はいろんな意味で大きい。 トランプ如きで貸しを作れるチャンスをみすみす逃すこともあるまい。 「いいだろう。ただし、相手に何かしらの被害を与えるような過激なものはなしだ」 「それはもちろんよ。じゃ、賭けは成立ね」 互いにカードを切り、戦いの用意は整った。 「「せえの、スピード!」」 シュバババババババババババババババババババババババッ!!! 「ぬっ!」 「くうっ!」 互いの手が残像を残すほどの速度でカードを切り続ける。 (おのれ紫!さては相当特訓した上で持ちかけたな!) (何が少しやりこんだことがある、よ! これじゃあホントに5分5分の勝負じゃない!) 実力を隠していたのはお互い様と言うものだが、文句を言っていてはその隙に差をつけられてしまう。 手を一切休めずカードを切り続け、初戦は後1枚で霖之助が負けた。 「くっ……なかなかやるじゃあないか」 「いいえ、霖之助さんのほうこそ」 声は笑っているが2人とも戦士の目になっている。 賭けのことも忘れてもう一回、もう一回と勝負は続き、結局藍が迎えに来るまで互いに172勝172敗という互角の勝負を繰り広げた。 「ハァ、ハァ、この決着はまた今度……だね」 「フゥ、フゥ、ええ、今度こそ完璧に打ちのめしてあげる」 勇ましい捨て台詞を残して帰っていった紫。 何しにいったんですかと藍に突っ込まれ、実は最初に決めたルールでは勝っていたことを思い出した紫は3日間寝込んだらしい。 「……紫は今日も来ないのか!?」 その代わり、霖之助が紫の来訪を今か今かと待ち焦がれるようになったとか。
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/281.html
ゆかりんとは八雲紫の愛称であるが、しばしば八雲紫とは別の存在とも認識される。 この項では後者について解説する。 八雲紫は東方作品に置いて非常に重要な地位を持つ存在であり、それ故魅力的なキャラクターであるのだが、 その存在は不定なもので、彼女を彼女らしく描き切る作品はごく稀である。 そのため、その立場と万能性を用いて扱いようにアレンジされてしまうことが多い。 主に霖之助スレで描写される内容としては ・霖之助が好きで好きでたまらない(この設定はしばしば他のキャラにも使われる) ・ストーカー・覗きは当たり前 ・ありとあらゆる手で霖之助を自分のものにすべく行動する。時には痛い行動も ・ただし強制的に霖之助を自分のものにしようという手段は用いない。 ・賢者というには頭が弱く、諦めが悪い。 どっから見ても別人でしかないが、東方自体が描くのが難しいキャラクターばかりなのである意味仕方ないといえば仕方ない。 とはいえ聖典を見た人の反応から察しても不思議な存在である彼女の人気は高い。 安易に「ゆかりん」の出番を増やすのではなく「八雲紫」を意識して考えるのもキャラ愛ではないだろうか。
https://w.atwiki.jp/tsubaki/pages/188.html
《森近 霖之助/Morichika Rinnosuke》 リバース効果モンスター 星3/地属性/半妖族/ATK1000/DEF1000 このカードは攻撃宣言を行うことが出来ない。 このカードが反転召喚に成功した時、次の効果から選んで発動することが出来る。 ●自分の墓地に存在する魔法・罠カードを1枚相手に見せずに手札に戻すことが出来る。 ●相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚のコントロールを自分のフィールド上に移すことが出来る。 このカードは1ターンに1度裏守備表示にすることが出来る。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/294.html
これは 未知との遭遇(2)第三種接近遭遇 の続きとして書かれたものです。 変人さんはそこらに落ちてるので探してお読み下さい。正常な方は今すぐ閉じて下さい。どちらでもでもない方は慧音と霖之助がちょっと仲良くなった状態と考えてお読み下さい。 接近遭遇の順序がおかしいのは仕様です。 第四種接近遭遇 霖之助は商品の調達時以外は基本的に外出しない。読書が好きだからとか店番をしなければいけないから等は 体のいい言い訳でしかない。いや、もちろんそれらも大きな理由なのは間違いない、間違いはないが他にもいろ いろとあるのだ、長く生きていれば事情のひとつやふたつなどあって然るべきだ。とまあこれはどうでもいい話。 詰まるところ、今日も今日とて霖之助は香霖堂に籠っていた。 いつもと違うのはこの店にしては珍しく客がいることだ、常連以外の。霖之助にとっては不思議なことだが、 ある日を境に人間の客が急激に増えた。彼らはみな一様に好奇心に溢れた目で店主と商品を見て、たまに売上に 協力している。中にはなぜか霖之助に好戦的な態度を取る者もいた、全く相手にされていなかったが。 いやはや、理由が分からない。 ある陽光麗らかな午後、数人の女性客が店内にいた。彼女らもまた冷やかし目的で来店した集団だ。霖之助は 読書に意識の大半をまわしているので気づいていないが、冷静に見れば彼女らが見ているのが商品ではなく霖之 助であることを看破することは容易い。彼は時たま上がる黄色い声がうるさいとしか感じていなかったが。 「ごめんください」 店主が読書と客にいかにして売上に協力してもらうか姦計を巡らせることに気をやっていると何者かの声がし た。霖之助が本から顔を上げると果たしてその姿が春風に衣をはためかせていた。 「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」 「今さらあなたにそんなことを言われるのは変な感じがしますね。すみませんが今日も何か買おうというわけじ ゃないんですよ」 一応礼儀としての声を丁重に断る彼女――上白沢慧音だった。慧音は自分以外の客に気づいていないらしく、 形としては敬語だがどことなく柔らかい口調で声を掛ける。 一歩店内に踏み込んだ辺りでやっと客に気づく。慧音はすぐさまそれぞれの名前らしいものを挙げ、話しかけ るたが、女性客らは口々に何かを言ってすぐさまきゃいのきゃいのと退店していった。 「なんだったんだ彼女らは……」 その息のあった引き際の良さに霖之助は唖然としてしまった。慧音は自分に出会いの挨拶も交わさず、店主に 別れの挨拶もせずに帰ったことに不満をもらす。 「代わりに謝罪します、すみませんでした。彼女達の内のひとりは私の教え子でしてね、普段は礼儀正しい真面 目な生徒なんですが今日は少々様子がおかしかったようです」 律儀に霖之助に頭を下げる、彼としてはそんなことはどうでもよいのだが。走り去った客の容姿を思い出しつ つ質問する。 「今考えてみると彼女らは全員とも寺子屋の生徒といった風貌ではなかったようだけど」 きょとんと霖之助を見返す慧音だったが、すぐに合点がいった。 「寺子屋と言っても歴史の学校です。本分は歴史を教えて人間と妖怪の共存を図ろうというものですからね、門 戸は広く開けています。多少歳を食っていようと本人にその気があればみんな生徒ですよ。それにしてもあな たが他人の容姿を覚えているとは驚きですね」 それでも生徒は多くありませんが、と付け加えることは忘れなかった。 半妖からすれば人間の容姿を覚えるなぞ馬鹿らしいにもほどがある。彼らにとってのそれは、動物嫌いの人間 が野良犬や野良猫の成長を事細かに記録するような行為なのだ。気がつけば大きくなっているし、気がつけば死 んでいる、当然その内記録することが馬鹿らしくなってくる。それほどまでに寿命に差がある。 それから派生して妖怪などの長命な種族相手ですら容姿を覚えることなどしない。ただ「この相手はどこの誰 だ」という情報のみで事足りてしまう。むしろそれ以外は蛇足だ。 よって彼らにとって大体の場合、外見の記憶とは信愛の証とほぼ同義である。慧音のようにいちいち覚えてい る方がよっぽど稀有な例だ。 「彼女らは君と同じくらいの歳に見えたよ」 店主は客に椅子を勧め、客は店主の言に甘える。 「半獣の私と人間の彼女達を見比べるという愚かしいことをする方とは思っていませんでした。そういえばなぜ 彼女達は私に対してお邪魔しました、なんて言ったんでしょうね」 首をかしげる半獣、香霖堂での彼女は本当に物を知らぬ少女のようだ。 「僕にはがんばってくださいだの応援してますだのだったな。香霖堂の応援をするのならば声援ではなく商品の ひとつでも買って行ってくれた方が数倍助かるのだけど」 同じく首をかしげる半妖、彼に商人としての才があるのか甚だ疑問だ。 「今日は何の用だい? 買い物でないのはさっき聞いたけど」 霖之助は奥からカップをふたつ持ち出してくる。中は黒い液体がなみなみと満ちており、光を飲み込んでいる。 「はい、今日はですね。ええっと、あれです、前回相談したことについてです。あれがどうやら解決したらしい ので、相談した手前森近さんにも話しておくのが筋かと思いましてお邪魔しました」 もちろん霖之助にとってはどうでもいい話だが、彼女自身の気が済まないのだろう。つくづくつまらない堅物 だと霖之助は再認識する。 「その女生徒なんですがどうやらうまく行ったようで、ある男子生徒と一緒にいるところをよく見るようになり ました。うれしそうに礼も言って来ましたよ」 真っ黒な珈琲を啜りながら報告する。 「それは何より。でも少し意外だな、君がその手の相談に的確に答えられるとは思わなかったよ。前回の様子を 見る限りではね」 笑いを噛み殺しながら霖之助はカップを傾ける。慧音は苦々しい顔をするしかない、あれはどう考えても失態 だった。 「馬鹿にしないでください、と言いたいところですが私自身は何もしてないんですよね。礼もなんと答えれば良 いか困っていたところに突然言われたものですから」 「それは妙な話だな、何もしてないのに礼か。自己解決したが一応言っておこうとしたんじゃないのかい? 君 のように」 「その線も考えられますが、勇気を出して先生の真似をしたらうまくいきました、と言われたんです。私の真似 ということは知らず知らず何かをしていたんでしょうね。それが何かはわかりかねますけど」 いやはや、全く理由がわからない。 また珈琲を啜る。そこではたと気がついた。 「ここで珈琲を頂くのは初めてですね。何かあったんですか?」 「ああ、君の家でごちそうになったときにあまり飲めなかったのがくやしくてね。家で練習中なのさ」 「練習しなければいけないようなものは嗜好品とは言えませんよ。楽しめているうちに留めておくのが華です」 慧音の鼻は出された珈琲がなかなかの上物であると判断している。 「そこで何か不快な思いをしてね。最近はちょうど収入もあったから里で仕入れてみたのさ」 半獣はまたもや首をかしげる。 「不快な思いをしたのにわざわざそれを思い出すようなものを買ったんですか?」 「……言われてみればそれもそうだな。どうして僕はこれを買ったんだろう。心当たりはないかい?」 半妖の質問に答えられるはずもない。いや、答えは簡単だ、だがその簡単な答えを持っている存在は今の香霖 堂の店内にはいない。 慧音は黙って珈琲を啜る。霖之助のカップはすでに空だ。 いやはや、全く理由がわからない。わからないったらわからない。 ある夜、霖之助は珍しく表を歩いていた。たなびく雲が月にかかり、風が花を揺らし、霖之助の手にはいくら かの命の水。風情はないが、いい夜だ。彼は春風薫るあまりにいい夜なのでついつい散歩をしていた。 商売人が最も気をつけなければいけないのは情報だと聞いたことがある、なので職人芸というものを知ってお くのも悪くなく、自家製では出せない味を知るのも非常に重要なことだ。品物の価値を見極め、価格交渉をする に至ってはまさに商いの実践演習である。つまり今これを持っているのはつらい修行の一環だということは明ら かである。 普段は飲まぬ少し高めの酒を手に入れて霖之助はご機嫌だった。 まだまだ人里に近いというのに青年の足音を除いて実に静かである。夜遅いことを差し引いても少し静かすぎ る。浮かれた霖之助はそんなささいなことに気が回っていないようだが。 風があるとはいえせっかくの花を見ない手はないと外れに群生する桜を尋ねることにしたらしく、風呂敷包み をゆらゆら道を行く。 桜の木に近づく青年の姿を見つけた妖怪がいた。それは彼をまじまじと見つめ、しばしの逡巡の後に音を立て ずに移動を始めた。 「普段は挨拶挨拶とうるさい君が何も言わずに消えようとするとはどういうわけだ。お互い知らぬ仲ではないだ ろう」 霖之助は素早く動く影を見逃さなかった。もし目で見えなくとも妖怪ならではの気配を察知できただろうが、 確かに彼は彼女の後ろ姿をとらえていた。ばれずに逃げるには彼女の決断は遅すぎた。 「まけると思ったんだが逃げるかどうか迷ってしまったよ」 姿を見られては逃げてもやむなし、慧音はゆっくりと歩いて霖之助の元に寄る。すると木陰と月光を遮る雲に よって陰になっていた姿が露になった。 トレードマークの珍妙な帽子はなく、比喩ではない緑の髪に禍々しい二本角と毛むくじゃらの尻尾、片角には 血の色のリボンが揺れている。里が静かなのも当然だ、月に一度の特に妖怪が元気な夜である。 「やあ、こんな夜に偶然だね。お暇であれば一献どうだい? いいものが手に入ったんだ」 それを知ってか知らずか霖之助は普段と変わらぬ声で包みを持ち上げる。 「それは?」 「般若湯ってやつさ」 「店主殿は仏門に入られてるのか」 あいかわらず堅いねと霖之助は呆れ顔で笑う。 桜を前にふたりはどっかりと座り込んでいた。あり合わせの器に酒を注ぐ。 「肴はないけど宴会ってわけじゃないから我慢してくれ」 霖之助の杯は酒の瓶の蓋だ、おかげでろくに飲めやしない。彼は最初瓶に直接口をつけての回し飲みを提案し たが、下品だと一蹴されていた。 「春風に舞う花吹雪以上の春の肴は知りません、腹は満たされませんがそれ以上のものなど望むべくもない」 慧音の杯はなぜかひとつだけ霖之助が持っていた普通のぐい飲みである。途中で誰にも会わずとも呑むつもり だったのかもしれない。 「じゃあ、夜に」 杯を軽くぶつけ合う、霖之助の椀からはそれでも酒がこぼれた。 「こんな時間になぜ君はここにいたんだい」 やや辛めの味わいを口腔に染み渡らせながら質問をする。 「仕事の最中の小休止だ、ひと月もたまっていると量が多くてかなわん」 白沢化しているせいか普段より口調が強い。霖之助はやっと慧音の変化に気がついたようだ、空を仰ぐと一部 隠れているものの月はまん丸である。 「学校の仕事がたまっているのかと思えば……。そうか、今日は満月か。道理で僕の気分も高揚するわけだ。君 も珍しく洒落っ気を出しているようだし」 「気がついていなかったのか? やれやれ、不用心にもほどがある。それに私が逃げようとした意味がない」 慧音が溜息をつく。出来の悪い生徒に頭を悩ませているようにも見える。先生が板についてきたと言えば聞こ えはいい。 「妖怪を受け流す術なんていくらでもある、それに今の幻想郷で昔より危険な場所があるなら是非ともご教授願 いたいところだね」 昔の世を知っていれば今の幻想郷で恐れるようなものはろくにない。半妖は両者の長所を併せ持つのでずるが しこく出し抜くことも容易だ。ここでは彼らに命の危険などないに等しい。 「そういえばなぜ君は逃げようとしたんだ。普段の君が嫌いそうなことだが」 「質問を続けるのは無礼だぞ。まあ非があるのは私だから仕方ないか。すまない、癖のようなものだ。いくら慣 れ親しんだ相手でも、初めてこの姿を見せると大抵怯えられてしまう。向こうがそういう素振りを見せないよ うにしてるのがわかってしまうのがなおさら辛くてね。あまりこの格好で人前に出ないようにしているんだ」 「それはそれはご立派な心構えだ、しかし半妖相手にその対応は失礼じゃないかね。たかが角の一本や二本生え たくらいで腰を抜かすと思われているようだ」 だからすまないと言っているでしょうとなだめる慧音は酒のせいかゆるい表情だ。早く言えば笑っている。 二人の飲むペースは遅い。慧音はこの後の仕事に障らない程度に飲んでいるし、霖之助はあまり飲んで注いで 飲んで注いでを繰り返すのも無粋だと抑えている。結果、話すか散る花を見送るかのどちらかの時間が長くなる。 「僕に仏門に入っているのかと聞いたが君のほうがそれらしいんじゃないかい? 不邪婬戒も守っているようだ し」 ニヤリと笑う、目はやたらと楽しそうに光っている。もちろん慧音が嫌がるのを承知の上でやっているからた ちが悪い。 「陰険だな、それにお互い様だろう。そもそも、だ。そういう機会がこれまでなかったのだから正確には不邪婬 戒を守っているわけではない」 「はあ、面白い返しのひとつも期待した僕が馬鹿だったよ。口調や態度が違っても君は君だな」 「……悪かったな」 「悪いとも言ってない、生半可な答えを返してくるような相手だったら今こうしていることはなかったろう。そ れにしても本当に一度も恋仲になった男はいないのかい? 声のひとつもかかって良さそうだが」 霖之助の性質を考えればこれは駆け引きでなく純粋な疑問なのだろう、信じがたいことに。 「そういうお話を頂いたことはありますし声をかけられたこともあります。ですがね、迂闊に応えて悲しい思い をするのは御免だ」 「やっぱり考えることはみんな似たようなものになるんだね、僕の場合はそれ以上に面倒だというのがあるのだ けど。それらがなければ今頃僕も君に森近の旦那さんと呼ばれていたかもしれないね」 たぶんない、例え両者ともただの人間だったとしてもおそらくそんなことにはならない。 それに後天性と先天性が会うこともなかっただろう。 「気づかれていたか。商家の男主人は旦那と呼んでいいんですけどね、私は未婚なら店主と呼ぶことにしている」 しばし沈黙が流れる。風の勢いが増し、まるで吹雪のように花が散る。散ってしまう。月も完全に隠れ、ほの 明るい花びらの反射では人の輪郭は見えても表情までは読み取れない。 ふたつの影の片方がぐいと杯を空け、語りかける。 「仲のいい人間がいるな」 その声は高い。 「君が言っているのが魔理沙なのか霊夢なのかはわからないけどね」 「霧雨の娘さんの方だ。貴方の力で彼女を家に帰らせることはできないか?」 「魔理沙の家は森の中だよ。何も言わなくても家に帰る」 「わかっててひねた答えをするな。霧雨の旦那さんも歳は食う、娘が可愛くないわけがないでしょう」 わかっていてもどうすることもできないこともあるし、どうにかする気にもならないこともある。放っておいて 欲しいなら人の生き方に干渉しすぎるのは下策だ。 「僕が霧雨の家にできる魔理沙に関する最大のことは、彼女の最期を見送ることだと思ってる。それは変わらない よ」 珍しくはっきりとした拒否に舌打ちが響く。 「貴方も半分は人間でしょう」 「もう半分は妖怪さ。完全な人間の経験はない、君とは違ってね」 「……皆が仲違いなく幸せに暮らすことができればそれが一番だろうに」 「なにが幸せかなんて本人にしか決められないよ」 説得させるための説得はあえなく失敗に終わった。負け惜しみまで否定するのは少々趣味が悪いが、らしいと言 えばらしい。 休憩のはずが心労が溜めているのはどうなのだろうか。慧音は角の根元のさらに下あたりを押さえながら深いた め息をついている。 それを見て今度はもう片方が杯を干す。まだ満月は雲に隠れている。 「ちょっと酔ってきたようだ、満月のせいかもしれないな。これから先は酔っ払いの鼻歌程度に聞いてくれ」 軽く息を吸う。 「君はなぜそこまで人間に肩入れする? いや、できる? 産まれたての赤子だって五十年もすれば死ぬ、運よく 病を患わなくともせいぜいが七十。親しくなればなるほど死別で傷付くのは自分だってことくらいわかるだろう。 僕は運よく親からだからそういうものとわかっているが、君は違う。先立った者の中には幼馴染や友もいただろ う、だのになぜ今も人の間で笑っていられるんだ」 淡々と声が紡がれる、少なくとも淡々としているように聞こえる。好奇心から来るどうでも良い質問のひとつの ような響きだ。男女の機微に疎く性格上皮肉にも弱いとはいえ、相手は伊達に賢人と呼ばれてはいないが。 「そう、ですね……。逆に質問させてもらうが貴方は目の前に広がる眺めをどう思う? 掃除が大変そうだとかそ ういうひねた答えはいらないぞ」 「素晴らしいと思うよ、もちろんね」 「うむ、桜、蛍、花火、紅葉、満月、一部での雪。美しいとされるものには見られる期間が短いものが多いです。 逆に短いからこそそこに趣を見出すのでしょう。あなたはすぐに散ってしまうからと桜を見ないのですか? す ぐ死んでしまうからと蛍を見ないのですか? 私はできるだけ近くで見たいと思っているだけです。もっとも今 見ているものは必ずしも美しいだけとは限りませんが、それを含めて見るのも一興ですよ」 私がもともとは人間というのもありますけどね、と付け加える。 「いつか貴方から聞いたお話ですがね。私は半妖になってからもしばらくは恵まれていたんだ。両親だけでなく知 り合いのほとんどがそれまでと変りなく接してくれた。もしそうでなかったら今頃私は陰険でひねくれた半妖に なっていたかもしれない。貴方が霧雨の娘さんに対して考えていることのように、私がそのときの恩を返し続け ることは変わらない。返し終える日が来るとは到底思えないがね」 「全く、君は真面目すぎる。いつか足元をすくわれるかもしれないよ」 群雲が晴れ、月が再び顔を出す。 仏頂面の霖之助が自らと含み笑いを帯びた慧音に酌をする。酒はまだほとんど飲まれていない、こんな量で妖怪 と混ざっている者たちが酔えるわけがない。 「すくわれたらすくわれたです、古い歴史が終わって次の歴史が始まる。伝えるべきことを伝え終えたら私が不要 になるだけだ」 愛する人達の為になるならば消えることも吝かでない。しかしそれまではいつ自分が不要になるのかわからぬま ま全力で里を守る、らしい。 「やれやれ、君を見てると悟りを開いた聖人なのかただの白痴なのか判断に苦しむよ。苦痛を受けることを苦痛と 思わないなんて僕の理解できる範囲からは少し外れている」 「私は半妖だからな、体も心も丈夫なんだ。……ただ、受けるのは構わないがその逆は少々辛いものがある」 慧音の表情がやや湿る。淀む口に酒をあおる間に霖之助が先を続ける。 「人から人の形をしたものになった蓬莱人、藤原妹紅、か。確かに彼女ほど寿命比べを挑むのが馬鹿らしくなる相 手はいない」 「知っているのか?」 「ちょっと縁が合って最近ね。あの目の持つ力はやはり永い人生で培ったものなのだろうか」 慧音は驚きを隠そうともしない。霖之助も妹紅も自ら進んで誰かと会うタイプではない、それどころか追い返す ようなこともする人間だ。今でこそ妹紅は永遠亭への患者を護送したりしているが積極的には人の元へは行かない。 ふたりに接点など全く思いつかない。 「どんな縁なんだ」 「聞くは無粋だ。続けてくれ」 動かないふたりの関係に興味津々といった様子である。ならば余計に霖之助が応えるわけがない。 「ああ、妹紅と知り合ったのは少し前でな、そこら辺は今は割愛するか。人と馴れようなんて毛ほども思っちゃい ないとのたまったんだ。人間ならそんなことあるはずないだろうのにな」 霖之助の脳裏には本気で嫌がっている蓬莱人とそれを根っからの善意でつけまわす半獣の姿がありありと浮かん だ。ついでにあまりのしつこさについに根負けする姿も。 「妹紅に笑顔は増えた。だが冷静によくよく考えてみると私がしていることは彼女に苦しみを与えることになりか ねん、親しくしようとすればするほどにな。半妖の永いは長いの言い換えだが、蓬莱人の永いは正真正銘の永い だ。付き添うべきは私のような紛いものではなく竹林にいる月人のような本物なのかもしれないと思うと、ね。 貴方はどう思う?」 花吹雪の名の通り桜が雪のように舞う。夜桜であれば毎回雪月花を同時に楽しめると思えば、なるほど春風も悪 くない。 「これはとある人からの受け売りなんだが……」 小さな杯を乾かしてからゆっくりと口を開く。 「君はすぐに散るからといって桜を見ないのかい?」 しばししてふたりの口の端が吊り上る。まだ声はこぼれない。 「なるほど、うまい冗談とはこういうものなのだな。下らないだけでなくそれ自体で完結している。それに答えと しても二重丸だ」 ひとしきり――やや下品なほどに――高らかに笑い声を上げていた慧音が話し始める。上ずった声と腹を押さえ る手がまだまだ余韻が残っていることを示している。 「だが私を花に例えるとは少しほめすぎだ、それでは精一杯これほどまでに美しい薄桃色の花を咲かせている桜に 失礼というもの。もう少し位を下げてくれ」 「僕は嘘なんて面倒なものは使わないよ。それに君は……、んん、君の人間に対する強い心は桜に負けるとも劣ら ず素晴らしいものだと思う。僕には到底真似できないよ」 対して霖之助は至って落ち着いている。彼女が過剰反応しすぎていると思っているのだろう、彼の笑みは若干引 き吊り気味になっている。 「実際妹紅がどう思っているかかはわからないが少し気が楽になった、感謝する。貴方も陰険なだけじゃなかった んだね」 「今回は少しばかり自信があるから今まで通りに彼女と接すればいい。あともしいい人に見えるなら今僕がべろべ ろに酔っているからだろう。明日になればいつも通りの陰険な店主に戻ってるよ」 それは残念だとまた妖怪が笑う。あまりの笑いっぷりに半妖は引く。 「残念だがまだ仕事もある、今日はここらで退散させてもらうよ」 「なら僕も引き上げるとしようかな」 杯を瓶の口にあてがうと素早く風呂敷で包む。霧雨店での修行の成果を披露する場面の大半が客前でないのが残 念である。 やたらきっちり別れの文句を述べる慧音を霖之助が放置する形でふたりは別れた。最後にやや大きな声で投げか けた感謝の意に対する返事は、あまりに小さくて届くことはなかった。 「悩みがひとつなくなった! ありがとう!」 「こちらこそ」 霖之助の荷物の重量はほとんど変わっていない、それをゆらゆら家路を進む。彼は道すがら今日の会話を思い出 していた。 「そういえばとても不格好な皮肉を言われたような気がするな……」 首を振って自らの記憶を否定する。相手はあの慧音だ、そんなはずはない。 慧音の足取りは軽い、跳ねるように家路を辿る。彼女は道中今日の会話を思い出していた。 「今日は珍しく真面目に話を聞いてくれたししてくれたような……」 首を振って自らの記憶を否定する。相手はあの店主だ、そんなはずはない。 それでも胸の奥底になにか不気味なものを埋め込まれた気がする。 つづけーね
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/177.html
外の世界で幻想と化した物が、最終的に行き着く幻想郷。 だが幻想郷に来るモノは、物ばかりというわけでもない。 【偶然が重なった必然】 魔法の森にある店、香霖堂。 この店の店主こと森近霖之助は、今日も商品を仕入れに無縁塚へと赴いていた。 普段は一人で黙々と進むはずの道中だが、今日は珍しく霖之助に話しかける者がいる。 「いつもこんな道を歩いてんのか……? もやしっ子だと思ってた香霖も結構体力あるんだな」 声をかけたのは、人間の魔法使い、霧雨魔理沙。 霖之助の昔なじみにして、香霖堂の儲けにならない常連である彼女。 一度くらい見ておいても損はないだろう、と言ってついて来たのはいいが、すでにその疲れを隠そうともしていない。 「僕としては、どこへ行くにも足を使わないで飛んでいく君や霊夢のほうがよほど不健康だと思うんだがね」 「その分弾幕ごっこで汗を流してるから問題ないぜ」 こんなやり取りもいつものことだ。 無縁塚に到着した霖之助は、早速落ちているものを吟味し始める。 たまごっち。これは一時期随分な数が落ちていたが、今ではほとんど見ることはない。 似たように、かつては大量に仕入れていたが、今では見かけなくなったものが目に付く。 これらはすでに大量に在庫があるため、目をくれることはない。 なにか珍しいものや新しいものはないか。 そう思って探していた霖之助だったが、 「うわっ!? なんだなんだ!?」 魔理沙の声で探索を一時中断することになる。 「どうかしたかい? 魔理沙」 「こ、香霖! い、い、今なんか変な声が聞こえたんだ!」 よほど驚いたのか、尻餅をついたまま虚空を指差す魔理沙。 「とにかく落ち着くんだ魔理沙。それで、どんな音が聞こえたんだい?」 「あ、ああ。なんか歌声みたいな感じだったぜ。時計がどうとか……。 あ、気をつけろよ香霖! ちょうどその辺だ!」 歌と聞いて、霖之助の記憶にピンと来るものがあった。 魔理沙が言う場所に立ち、必死に止めようとする魔理沙を手で制して耳をすませる。 ……今は……もう……動か…… 確かに聞こえた。が、これは別に驚くようなことではない。 魔理沙を安心させるべく、霖之助は口を開いた。 「そうか、魔理沙は知らなかったのか。 それなら無理もないが、これは別に怖がることじゃないよ。 最近はあまりなくなったが、これは歌が幻想入りしているんだ」 「歌が幻想になる? 誰もその歌の存在を知らなくなったってことか? そんなことがめったにあるとは思えないんだが?」 「まあ最後まで聞きたまえ。 そもそも歌というのは元となる歌詞や音程が一緒でも、歌い手によってかなり印象のかわるものだろう? 声の高い人が歌うのか、低い人が歌うのか。歌いやすいリズムや抑揚だって違ってくるだろう。 かつてはある代表的な歌い手のものとして認識されていた歌が、世代交代やその歌い手の死などによって新たな歌い手の ものとなる。 時が経つにつれ、以前の歌い手がどのようにその歌を歌っていたのかを覚えている人間は減っていく。 そうして忘れ去られた、『かつてそれが標準だった歌い方』が幻想となって無縁塚に訪れるんだよ」 「はあ、なるほどな。それにしても人騒がせな幻想入りだぜ」 「まあそう言うものじゃないよ。結局のところ、これらの歌もほとんどが誰の耳に届くこともなく消え去っていくんだ。 むしろ、誰かが一生懸命歌っていた、そんな歌の最後に立ち会えてよかったというべきだろうね」 結局その日はたいした収穫もなく、霖之助も魔理沙も自宅に戻ることになった。 その夜、霖之助はなかなか寝付けなかった。 理由は明白。昼間無縁塚で聞いた歌が気になるのだ。 『今はもう動か……』、ここまで聞こえたその歌。 おそらくこの後、動かない、と続くのだろう。 幻想入りするほどに人々に親しまれた歌。その歌は、何かしらの道具が壊れたことを歌っている可能性が高い。 一体何についての歌なのか。最終的にこの歌はどういう結末を迎えるのか。 道具を扱う者として、知識人を自称する者として、あの歌が気になって仕方がない。 ……ダメだ。 夜中に歩き回るのは危険だが、あの歌を知らないまま生きていくほうがよほど体に障る。 決心したら後は早い。最低限の用意を済ませ、霖之助は無縁塚へと急いだ。 「確か……この辺だったな」 昼間と夜中とでは、同じ景色でも印象ががらりと変わるものだ。 数十分間かけて捜し歩いた後、ようやく霖之助は歌の聞こえる場所を探り当てた。 ……嬉しい……ことも……悲しい……ことも…… 低い男の声だ。 歌詞からすると、どうやらまだ歌の途中。 座り込んで目を閉じ、なんとか聞き取れる程度のその歌に耳を傾ける。 音は昼間よりやや小さくなっていた。明日には消えているかもしれない。 間に合ってよかったという安堵と、丸1曲聞き取れるだろうかという焦燥。 その2つの想いが、より霖之助の聴覚を鋭敏にする。 一旦歌が途切れた。 おそらく後半部分だったのだろう。ある人物の死期を悟った時計が、その逝去を告げたという歌。 さあ、これから前半だ。 どういう経緯でこの時計がその人物と知り合ったのか。 誰かから送られたのか。自作したのか。ふと気に入って購入したのか。 少なくとも言えることは、この人物は時計をとても大切にしていたということだろう。 でなければ、主の死に反応するなどという芸当には到底至らない。 それから数分が経過した。 しかし、一向に歌が始まる気配はない。 まさか、今のが最後だったのだろうか。 昼間もっときちんと聞いておけばよかった。 いや、せめてあと何分か早く店を出ていれば……。 悔恨で折れそうになる心を何とか保ち、霖之助はひたすら待ち続ける。 ……大……きな……のっぽ……の…… 聞こえた! 音の大きさから言って、正真正銘これで終わりだろう。 待っていてよかった。それとも、最後の聴衆に応えてくれたのか。 とにかく、これがおそらく最後のチャンスだ。 一字一句たりとも……聞き逃してなるものか……! ……そ……の……と………け…………ぃ…………… この歌の最後の1回が、今終わった。 先ほど聞いたのはやはり後半部分だったようだ。 全部通して聞いてみれば、実にありふれた内容と言える。 主と共に産声をあげ、常に人生を共にした時計。 大切にされた時計は、最初だけではなく、その最後までも愛する主と共にした。 よくある話。 大事に使い続けた道具が、魂を持つという話。 日本ではままある話だ。 それなのに……どうして…… こんなにも涙が止まらない…… 頬を伝う涙と閉じた目をそのままに、霖之助は考えを巡らせる。 おそらく、あの歌にこめられた想いが、自分の心を打ったのだろう。 低くて包み込むような、熟年の男の歌声。 名を知る由もないが、この歌い手が心底敬意を払って歌っていたことが伝わってきた。 惜しいことだ。あれほどの歌い手が、外の世界では幻想と化したとは。 いや、それは違うか。 外の世界では、おそらく新たな歌い手がこの歌を歌っているのだろう。 その新しい歌い手は、自分が今聞いた歌い手に勝るとも劣らぬほどに、この歌を愛しているに違いない。 ならば、先ほどの歌い手が幻想になったとしても、嘆くことはない。 想いを引き継ぐ者がいてくれるのだから。 真相はわからないが、これほどの歌が簡単に忘れ去られるとは思えない。 と言っても、自分にできることは外の世界の人間たちを信じることだけだが。 そして、霖之助はそっと目を開けた。 徐々に暗闇に慣れた目が、周囲の景色を映し出す。 その視線の先、こうして腰を下ろしていなければ見逃していただろう位置に、あるものが見えた。 「あれは……もしや」 近づいてみると、それはいわゆるGrandfather Clockと呼ばれる、成人男性より大きな振り子時計。 年季こそ入ってはいるが、傷はよくみなければわからない擦り傷程度。表面はきれいに磨かれ、異様な程に高水準の保存状態といえた。時計の針は12時59分を指している。 偶然にしてはあまりに出来過ぎなこの状況。 興奮に震える手をそっと当て、この時計の名を調べる。 「……『おじいさんの古時計』。やはり……そうなのか?」 もし、できることなら手元に置きたい。 値打ちがどうのこうのという問題ではなく、この時計がまさしくあの歌の時計ならば、こんなところで朽ち果てさせるわけにはいかない。 手を優しく当てたまま、そっと時計に話しかける。 「……もし、君が良かったら、僕の店でまた時を刻んでくれないか……? あれほどの想いが籠められた君に、僕の人生を見守って欲しいんだが……」 言った後で我に返る。 物言わぬ時計に話しかけるなど、自分は何をしているのだろうか。 例え魂が宿っていたとしても、積極的にはそのことを悟らせないだろうに、と だがその時、 カチッ ボオォォーーーーーーーンンン…… 時計の針が確かに動き、時を告げる音が響き渡った。 振り子は動いていない。 ましてやねじなど巻いていない。 霖之助は、ただそっと触れただけだというのに。 「……は、はは、はっはっはっは!」 考えてみれば、昨日から今までの経緯は異常だ。 たまたま連れてきた魔理沙が、幻想入りした歌を聞きつけた。 ほんの一節しか聞いていない歌が気になって仕方なかった。 先延ばしにせずに来てみれば、消え行く歌の最後の1回に間に合った。 目を開ければ、普段なら見逃してしまいそうな位置にある時計が目に入った。 そしてこれだ。 動かぬはずの時計が、まるで霖之助の呼びかけに応えるかの如く一度だけ音を上げた。 これはもう偶然なんかではない。いや、偶然であってなるものか! 彼は僕のもとに現れるべくして現れたのだ! ならば僕も応えよう! 誠心誠意を持って君を整備し、この命尽きるまで君と共にあろう! 霖之助の笑い声が、いつまでも無縁塚に響いていた。 そうして、その時計は香霖堂で再び時を刻み続ける。 新たな主も、その時計を大事にし続けた。 そんなある日。 「それにしても、こいつはこの店に似合わず随分立派なものだな。 一体どこでこんな逸品を見つけてきたんだ?」 「ん? この大時計かい? コレは外の世界に住む、ある人物が――――」 あんなに誇らしそうに話す霖之助は後にも先にもなかったと、後に慧音は語った。
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/1380.html
以前、投下した 9スレ734 の微妙な続きのお通しを投下します。 いや、あの唄がどうもこんな解釈しか出来ない自分も十分病んでるのなぁ…。 幻想郷の魔法の森にある森近霖之助が経営する香霖堂。 そこに、少し前から外来人の〇〇という青年が住み込みで働いていた。 店主に店番を任された彼は今日も仕入れ先【?】である外来の品が流れ着く無縁塚から人気の品である雑誌を拾って来て陳列し叩きをしていた。 〇〇「いつかアナタによく似た笑顔の男の子と~、いつか私と同じ泣き虫な女の子~♪」 外界に居た時に何度も見た拾って陳列した人気雑誌のCMのBGMを思い出し歌っていると…。 ガチャ…カランコロン…。店の扉が開き、「ただいま。」と声がした。 〇〇「家族になろうよ~♪ん?あぁ、霖之助さんお帰りなさい。って、こりゃまた皆さんお揃いでいらっしゃいませ。」 霖之助の後ろには幻想郷の重鎮である博麗の巫女、白黒の魔法使い、紅魔館のメイド長、八雲と白玉楼と永遠亭の主従に人里の守護者が居た。 霖之助「〇〇君…ご機嫌なのは分かるけど、外まで聞こえていたよ?」 〇〇「あちゃ、ホントに外まで聞こえていました?何か恥ずかしいですね…ん?あぁはいはい、皆さん今日もまた同じ雑誌をご購入ですか?いえいえ、今しがた陳列したばかりですからね、この雑誌。」 少し呆れた顔し荷物を置くために店の奥に引っ込んだ霖之助との会話をしていると、客として来ていた重鎮達がそれはそれはにこやかな笑顔で先ほど〇〇が陳列したゼク〇ィやた〇ごクラブとひよこク〇ブを抱えながら会計を待っていた。 〇〇「え?さっきの唄の題名?【家族になろうよ】ですよ。いい唄でしょう?」 会計時にさっきの唄の題名を知り、満足気に帰る重鎮達。 その日ー、魔法の森の至る所が灰燼になったとか。 霖之助(〇〇君の変わりの新しい外来人の従業員を募集するかな?) そう切実に思う霖之助だった。
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/2486.html
309(清蘭/23スレ/309) こーりんがそこら辺の需要を狙っているとしか思えない 「霖之助さん」 「これは……稗田阿求。珍しいですね、今お茶を入れましょう」 「この商品、言い値で買いますので。今後は私以外に売らないようにしてくださいませんか?」 阿求が霖之助の眼前に突き付けたのは、彼の新商品である眼鏡型カメラであった。 「これが私の稼業です。貴女以外にも意中の男性に対して偏執的な女性は多い」 しかし霖之助は臆することなく、お茶を入れながら言葉を交わしていた。 「稗田の財力はご存じのはずです」 「だからですよ、過ぎたるは及ばざるが如しです。貴女には、はした金でも、個人で扱える金額ではない」 自身の調子を一切崩さない霖之助に、阿求は「やり辛い」と言った。 「他の、眼鏡型カメラを作れそうな霧雨魔理沙や河城にとりは。自分の手の内を明かしたくないから、作らないでしょうこういうのは」 「それらをすべて、有償ではありながらも救うのが私の稼業なんです」 「言い値で買い取ると言っているのです。今後は私の為だけに作ってください」 しかし霖之助には稗田阿求にも臆さないだけの理由が存在していた。 それは彼が人里には居を構えていない事以外にも存在していた。 「手紙……ああ、クソ!」 霖之助が阿求の前に無造作に置いたいくつかの手紙の差出人に阿求は毒づいた。 紅魔館のメイド、白玉楼の主と庭師の連名、守矢神社の巫女、秋神が二柱とも。 もちろん、八雲家の名前だって存在していた。 「みなさん、私の商品を喜んでくれています。今も新しい商品を、彼女たち専用の物をいくつもお作りしました」 稗田家は強大である、人里には稗田を上回る権勢は存在しない。 だが人里の外に関しては、その限りではない。 話を無下に扱わない程度の権勢まで目減りする。それでも十分凄いが、人里と同じようには振る舞えない。 「もちろん、稗田阿求専用のウェアラブル端末だって。お作りして差し上げますよ?」 彼の技術を独占しない事により、力の均衡が保たれていた。
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/195.html
前の話へ 次の話へ あらすじ 少しずつ縮むアリスと霖之助の距離。 それに嫉妬した魔理沙が爆発、それでも朴念仁な霖之助に今度はアリスがキレる。 皆自分の気持ちが整理できなくなっていた。 アリスが飛び出していった香霖堂。 霖之助は魂が抜けたような顔をして座り込んでいた。 思い出すのはアリスの言葉。 ―――自分が何をしたのか、なんで魔理沙が泣いてるのか、悩んで悩んで悩みぬきなさい!――― かつては、自分がすでに男としては枯れているものと思っていた。 だが、アリスと触れ合ううちにそれは自分の思い込みだと気付いた。いや、アリスが気付かせてくれたのだ。 ……魔理沙の顔が頭に浮かぶ。 小さいころは甘えん坊だった。 年の割りに賢かった。 魔法を志してからは父親とそりが合わず、自分が何度も仲裁に入った。 自分が霧雨の家を出てからも縁は切れていない。 研究に行き詰ればここに来て一言二言口をこぼし、帰っていく。 うまくいったら嬉しそうに自慢しにくる。 店のものを持っていく代わりに差し入れをもらうことも多い。 料理を振舞ってくれることもしゅっちゅうだ。 ここまでなら仲の良い兄妹と言っても差し支えないだろう。 だが、 ―――安心しろ。香霖を好きになる物好きな女がいなくても私がもらってやるぜ――― ―――貰い手がなかったらよろしく頼むぜ――― こんなことは兄妹同士で言ったりしない。 なのに、本気に取ったことは一度もなかった。 自分に見せる彼女をそのまま彼女の本質だと思って疑いもせず、ただの軽口と切って捨てた。 どんなに年が経っても、言葉遣いや表面上の性格が変わっても、魔理沙は魔理沙だったというのに。 小さいころのまま、甘えん坊で寂しがりやな女の子だったのに。 今ならわかる。彼女が軽口に見せかけて、その裏でどれだけの緊張と不安を押し殺していたのか。 「最低だな……」 「ええ、本当にね」 独り言に対する、ありえないはずの返答。 こんなことをするのは一人しかいない。 「見ていたのかい……? 紫」 「ええ、あの人形遣いがここに通うようになってからさっきの顛末までずっと」 背後に気配を感じる。スキマから上半身を出して話しかけているのだろう。 「いまさら覗いていたことをどうこう言う気もないが……情けないところを見られてしまったね」 「そうね。さっきのはちょっといただけなかったわ」 ふぅ、とため息を吐く。 手厳しいことだが、今はその率直な物言いが心地よい。 「それで? あなたはどうするつもりかしら?」 「どう……か」 「まさかここまで来て選べないなんて事は言わないでしょうね? 事態をここまでこじらせたのは間違いなくあなたの責任。ならこの問題はあなたが片をつけないといけない」 「そう……そうだね。わかってはいるつもりさ」 わかっている。これは自分が答えを出さないといけない問題だ。 そんなことは痛いほどわかっているのに、それでも自分の気持ちははっきりしていない。 情けなくて腹立たしくて自分を殴りつけたい心境だが、そんなことをしても何にもならない。 「一つ……簡単に済ませるほうがあるわよ?」 その言葉が耳に届くと同時に、両肩に重みを感じる。 しなだれかかって来た紫は、霖之助の耳元でさらに言葉をつむぐ。 「私を選んでくれたら、全部きれいに収めてあげる。 私の持つありとあらゆる力を持って、元の鞘に必ず戻してあげる。八雲の名において誓うわ。 ……そのかわり、私をあなたのものにして」 それは、抗いがたい甘美な誘惑。 確かに、彼女の能力を持ってすればこの問題はすぐにでも解決するだろう。 しかも幻想郷最高の妖怪を伴侶に持つ。これ以上の名誉は幻想郷に存在しない。 だが、その選択はありえない。 「君にそこまで言ってもらえるとは光栄だが、受けるわけにはいかないな」 「あら、やっぱり? まああなたならそういうと思っていたけど」 そういうと、紫はあっさり霖之助から離れた。 「じゃあ、しっかり考えて答えを出すことね。 この八雲紫を振った男が生半可なことをしたら、永劫許さないからそのつもりでね」 「紫、君は……」 彼女なりに励ましてくれたのか。それとも……。 そんな思いがよぎった瞬間、唇を指で押さえられた。 「変なこと考えるんじゃないの。それじゃあね霖之助。頑張りなさい」 そういい残して、紫はスキマに戻っていった。 「ああ、もちろんだ。ありがとう、八雲紫――」 さあ、ここからは自分の仕事。 ――紫の自室にて―― 「はぁ……私も完全には悪役にはなりきれないのね……」 たったいま香霖堂から戻ってきた紫。 霖之助が考えたとおり、彼女も霖之助に淡い思いを抱いていた。 そんな彼女がアリスの接近を許したのは、ひとえに楽観と自信が原因だった。 客観的に見て自分は美人だと思う。 妖怪や人間を問わず言い寄る男はいくらでもいた。 だから焦る必要はない。 アリスのような1000年も生きていない小娘に自分が遅れをとることなどありえない。 そう思って放置していた。 もっと早く、自分から積極的に動いていればこんな事態にならなかったであろうことも知らず。 気付けば女にあれだけなびかなかった霖之助がアリスと懇意になっていた。 そのときにはもう手遅れで、なまじ明晰な頭脳を持つだけに、自分にはもうチャンスが訪れないことを理解してしまった。 これは自分の自業自得。 相手を侮り、自惚れていた自分の落ち度。 だから、泣くのはこの一回きりだ。 ぎゅっと目を瞑る。目じりにたまっていた涙は頬を伝い、ぽろぽろとこぼれ落ちた。 だがそのまま落とすことはしない。涙の落ちる先にスキマを開き、回収する。 自分の式は優秀だ。涙の跡でもあれば簡単になにがあったか察してしまうだろう。 いや、おそらくはもう気付いているのだろうが。 さあ、もうすぐ式の式が食事の時間を伝えに来るだろう。 それまでには、悲しみも後悔も心の奥に封じ込めてしまわないと。 「藍さま。まだ紫さまをお呼びに行かなくていいんですか?」 「もう少し、もう少しだけ待ってくれ橙」 妖怪は精神的な病に弱い。つまり心の傷の治りが遅いということだ。 たとえ霖之助がどんな答えを出したとしても、今現在人間の魔理沙や元人間のアリスはそう長くないうちに立ち直ることだろう。 だが妖怪の紫はそうはいかない。表には出さなくても、10年、20年、いやもっと長く心の痛みは残る。 だから今は、もう少しだけそっとしておきたい。 その日、マヨヒガの夕食はいつもより少しだけ遅かったという。 前の話へ 次の話へ